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明日から新年度

 iPadでようやく夜明け前を読了しました。とりあえずの感想。

 有楽町数寄屋橋泰明小学校の校門近くの島崎藤村出身校の碑を見たことがある。
 夜明け前は、島崎藤村の父親をモデルにして、自身の故郷を描いたものであるが、島崎藤村のそのものの経歴に対しても興味が持った。
 夜明け前を発表したのが1929年、書き終えたのが1935年である。藤村56歳から書き始めたということは、主人公半蔵が牢死した年齢に書き始めたということで、これも興味深いことである。
 書き始めた1929年は、山本宣治が暗殺され、より強化された治安維持法によって、人々が一層抑圧された時代に入り出した年であり、中国への軍事干渉がより露骨になりつつある年でもある。書き終えた1935年は、藤村が日本ペンクラブの初代会長として就任した年でもあるが、1941年には「戦陣訓」の文案作成にも関与した。(1943年71歳で逝去)
 夜明け前1部が描かれた時代は幕末であるが、江戸時代そのものを引きずりながらも時の変遷に翻弄される中山道の宿場町の様子が詳しく書かれている。2部は「維新」後の激動の時代に飲まれつつ、「維新今だならず」の思いのと「文明開化」の狭間で揺れる主人公半蔵と生活の基盤である宿場町の激変の中で、「変わるもの」と「変わらないもの」、主人公半蔵の信奉する国学のいうところの「復古」と「西洋」、「宗教」と「因習」、「経済」と「貧困」、「政治」と「官吏」の姿、「自然」と「開発」(これについては少々あっさりしている)などなど、中山道の宿場町の変貌を軸として、時代そのものに正面から立ち向かった大作である。
 長いので読むのは疲れたけど、それぞれの時代の場面場面が興味深かった。ときどき出てくる和歌や漢詩はよく理解出来ないものが多かったけれども。
 確かに旧本陣家族の姿を中心に描かれているのだが、ただ「街道の移り変わり」を描いただけでなく、長編全体の構成はきっちりと組み立てられていて、次の展開を予想させる伏線の描写も含め、各場面場面がたいへん丁寧に描かれている。
 私は、2008年の夏に中津川から馬籠や妻籠に女房と行ったことがあるので、時代は違うが、中山道の情景をそれなりにイメージしやすかった。
 また、作者自身が幼少の頃育った馬籠や9歳から移り住んだ東京が丁寧に書かれている。その頃の街の情景の描き方に、新しい発見が数多くあった。
 滝沢修主演で脚本新藤兼人の映画夜明け前(1953年)を見てみたい気もするのだが、おそらく映画は2時間程に編集されているであろうから、幻滅してしまうかもしれない。
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2012.04.01 Sun l その他 l COM(0) TB(0) l top ▲

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